2023-01-03 目をはんぶんだけ瞑る
-私は枕に左頬を押し付けて寝ている。
- まだ半分意識があって、でも目の中に夢がはじまっている。
- 目の瞑り方にはふたつあって、どちらもまぶたとまぶたは接しているので外の景色は見ていないが、まぶたのなかにある目玉の外側のまぶたを開くと目を瞑っていても色んなものが見える
- 眠たいのでそのまぶたすら閉じてしまいそうになるけれどそれでは見ている景色が消えてしまうので意識的にまぶたのなかのまぶたを開いておく
- ある男の子が私を迎えに来て、ざわざわと人の集まる地下の奥の方へと手をひっぱってゆく
- 私は必死にまぶたのなかのまぶたを開いて男の子を見失うまいとする
- 一度だけ本当のまぶたを開けてみたが枕と充電コードしか見えないのでまた外の瞼は閉じた
- 男の子は私の手を離して人並みをぬって走りながら時々私を振り返る
- ついていっているよ、と顔だけで知らせて大勢の人の顔の中に男の子の顔が混ざらないように見分けていようとする
- 時々ゴッホの絵のように顔同士が渦を巻いて混ざり合おうとするのを目玉に力を入れたりまぶたの中のまぶたを瞬きしてはっきりさせる
- 騒がしい音が流れているはずなのに音は聞こえない。だけど空気は濃くて粘度があって少しだけビビッドだったのでうるさかった。
- 人々の感覚が狭まって、肌にまとわりつくようになってくる。風のようだった感触がだんだん布のように、ゴムのように、ガムのように私が進むのを阻む。もう男の子は見えない。
- 目を開ければこの夢から覚めるのは分かっているから、少しくらい怖い思いをしても平気だ。できるだけ底まで行こうと思う。あまり自分から離れ過ぎたら枕の上に戻ってくればいい。